マイホームの購入にあたり、登記の持分はご夫婦の共有名義にしたいという人も多いと思います。
夫婦の資産だから半分ずつ、と思うのも自然なことで、共有持ち分の決め方は本来”自由”です。
二人の資産なので、どう決めようと自由なのですが、持分を決めて所有権登記することにより『不動産取得税』や『固定資産税・都市計画税』が生じ、住宅ローン等を利用する場合の『抵当権設定登記』に影響がでたり、資金の移動があれば『贈与税』にも影響を及ぼします。
そのため、安易に考えてしまうと、後日税務上の問題が発生したり、ややこしい問題に発展するケースもあるため、予めざっと知識を把握しておくことがおすすめです。
そもそも、何のために所有権登記をするの?
所有権登記の本来の目的に”第三者に対する対抗要件”というものがあります。簡単にいえば、「私のものです」と第三者に対して主張できるようになる。
ここで面白いのが「第三者」に対しての「対抗要件」という点です。
夫婦間は第三者ではない、という点が一つのポイントです。夫婦の資産に関しては、民法第762条(夫婦間における財産の帰属)に、ざっくり説明すれば、”共通した生計のもとで共同生活を営み、夫婦間で築き上げた資産は共有財産である”と定められています。
そのため、例えば夫の持分が8割、妻が2割と登記しても、夫10割、妻が0割でも、登記の持分割合に関係なく、二人の共有資産となります。(お互い納得すれば、の話しですが)
そこに税法上の問題や金融機関の事情等が複雑に絡み、将来の相続にも影響するため、すべての観点から判断するのがスマートといえます。
住宅ローンの借り入れと抵当権設定登記
マイホームを購入する際は、ほとんどの人が住宅ローンを利用すると思います。金融機関から住宅ローンを借りるにあたり、通常は担保として抵当権を設定するのが条件のため、金融機関の審査条件に見合う持分にする必要があります。
例えば、
例)
物件価格:5,000万円
借入額: 5,000万円(夫名義)
という場合、諸費用を除き、夫に対して物件価格の100%を融資をするため、いくら夫婦間で「二人の資産だから持分割合も半々にしたいよね」と思ったとしても、
持分割合=夫100%
が当然といえるでしょう。
住宅ローン控除を二人で活用したいとき
共働きで、なおかつ二人とも住宅ローンの減税制度を利用する場合は、借入額の割合によって持分を決めることになるでしょう。
夫婦共有名義と贈与税について
今度は、税法上の観点からみていきましょう。
民法では共有資産という扱いでも、税法上では例え夫婦間でも資金の移動があった場合は贈与税の対象になります。
マイホーム購入資金の負担割合 = 登記の共有持分割合
この二つ同じならいいのですが、ここがイコールでないと贈与税の課税対象となります。
住宅ローンの借入名義は夫、頭金を夫婦で負担した場合の事例
【事例】
・マイホームの購入価格 4,000万円
・内訳
頭金:夫・・・・・・・・・・・・300万円
頭金:妻・・・・・・・・・・・・200万円
住宅ローン借入額・・・・・・・ 3,500万円
そして、登記の持分が1/2ずつにしたと仮定しましょう。
この場合、夫が合計3,800万円の負担に対し、妻は200万円の負担になるため、
夫:3,800万円/4,000万円=38/40
妻:200万/4,000万円=2/40
となるため、
4,000万円×(20/40 – 2/40) =1,800万円
の夫から妻への贈与があったと税法上ではみなされます。
購入資金の負担割合に応じて、
共有持分:夫・・・38/40
共有持分:妻・・・ 2/40
と登記すれば贈与税の課税対象とはならずにすみます。
※実際の持分割合はシンプルにするといい
対策①贈与税の配偶者控除の適用の有無
それでも、妻の私も共有持分を半分にしたい!と思う場合もあるでしょう。
そんなときは、「贈与税の配偶者控除の特例」ができるか検討してみましょう。
主な条件に”婚姻期間が20年以上の配偶者”から、居住用不動産の贈与や金銭の贈与を受けた場合は、贈与税の基礎控除110万円のほかに最高2,000万円までを控除することができます。
詳しくはこちら➡ 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除
対策②夫婦間だけでなく、両親の資金援助など複雑な場合
自分たちの預貯金だけでなく、一方もしくは両方の両親からの資金援助があったり、結婚前に貯蓄した特有財産(夫婦一方の固有の財産)ある場合は、より複雑になります。基本的には負担額の按分に応じて決めるのが一般的ですが、
連帯債務にすべきか、ペアローンにすべきか。
共有名義ではなく、将来を考えて単独名義にしたい。
住宅ローン控除も最大限活用したい。
贈与税の非課税制度や相続時精算課税などベストな方法を知りたい。
など目的や将来の方向性によってベストな選択肢は変わってくるため、まずは担当者や税理士に相談するといいでしょう。
共有持分のデメリット:売却時の手続きが複雑になる
共有持分にした場合、購入するときはいいのですが、問題は将来の売却時や離婚、相続が発生するときです。共有持分の場合、単独名義より手間が増えます。
例えば、
- 売却時に共有名義者全員の同意や本人確認書類が必要
- 共有名義者の一人が持分を譲渡して、知らない人が共有名義になっていた
- 誰か一人が認知症などにより判断能力がなくなった
この仕事をしていると、こういったケースはよくあります。売却したくても同意が得られない、後見人を申請するか相続が発生するまで進めることができない、というケースも多々発生しています。
つい最近の話しですが、親せきのところに、祖父名義のとある山の相続人の通知がきたそうです。山を所有しているとは亡き父からも話をきいたことがなく、長い年月を経て、相続人はなんと全国で27人にのぼり、見たこともなければ、聞いたことのない名前ばかりだそうです。
この状態で直ぐに解決するのは至難の業です。それでも、このまま放置すれば、さらに相続人が増える可能性があるわけです。
将来のトラブルを避けるために
ご夫婦の共有名義でマイホームを購入するのは、まだシンプルです。将来、夫婦のどちらかが先に亡くなった場合、配偶者が相続登記を行うのは、何も支障がないばかりか、持分が100%になるため、シンプルになります。
たまに、相続の生前対策として、子の共有名義にするケースもあります。最初は良かったものの、そのうちに不測の事態の発生したり、経済的に窮して、一人だけ持分を譲渡したり、換金したくても全員の同意が得られなかったり、結果的にトラブルに発展してしまうケースもよくあります。
不動産業者の観点としては、”そもそもトラブルや揉める結果となる法律になっている”といえるため、声を大にしては言えないものの、共有名義はあまり推奨できないケースが多いです。将来のご意向や資産内容、相続等によって個別にアドバイスしますが、事前に揉めないように準備と対策しておくのが結果的に一番シンプルなのです。
それでは、また・・・。